第3章 日常①。
兄さんは翔ちゃんの頭から手を下ろし、私の髪をそっと撫でた。割れ物を扱うようなその手付きに私は嬉しくなった。
「おまえは変わんないな」
『前に会ってから数ヵ月しか経ってないんだから、当たり前じゃない』
兄さんの言葉に私は憎まれ口ばかり返してしまう、それは昔から変わらないこと。人前で素直になれなくて理屈ばっかり。そんな私にも兄さんは優しく接してくれた。
でも、いつまでもその好意に甘えているわけにはいかない。
クロと研磨のときにわかったんだ。
ちゃんと伝えないと、ってこと。
だからね、兄さん、
今までの分も、これからの分も、
ちゃんと言うよ。
私は髪を撫で続ける兄さんの手を捕まえて、自分の両手で包み込んだ。そして兄さんの目をしっかり見て言った。
『あのね、兄さん。私、素直じゃないから理屈ばっかり言って困らせちゃうけど。それでも兄さんは私に優しくしてくれるから。こんな私なのに妹として大切にしてくれるから。兄さん、ありがとう。これからは、その…兄さん迷惑にならないようにします…』
途中までは威勢がよかったものの、後半にいくにつれてどんどんボリュームが小さくなってしまった。
兄さんはキョトンとしていたけれど、やがて笑いだした。どこに笑う要素があった?今度は私がキョトンとする番だった。