第3章 日常①。
「俺も姉ちゃんいるぜ!」
何なぜかグーサインで自慢気に言ったのは田中先輩だった。それに西谷先輩が高速で頷く。
「姐さんめっちゃカッコいい!」
「だろ?ノヤには分かるのか!」
「おう!龍!!」
へぇカッコいいのか、と翔ちゃんが呟いた。"カッコいい"お姉さん、か…なんか憧れるかも。
その後も家族の話は盛り上がった。最近親が口煩いとか、勝手に部屋に入ってくるからプライバシーもへったくれもないとか、言いたい放題だ。
『みなさん色々なんですねぇ…』
しみじみ、といった様子で呟いた私に大地さんがところで…、と切り出した。
「朱里には兄弟とかいないのか?」
『あ、いますよ~。兄さんが一人程』
「「「「「えっ、いるのぉ!?」」」」」
ヘラヘラと笑いながら言うと部室にいる全員(翔ちゃんを除く)が振り向いて叫んだ。
「青司(せいじ)にい元気にしてんの?」
『うん、なんか今日辺り顔出すとか言ってたけど。翔ちゃん家に来るのかな?』
翔ちゃんは兄さんのことを"青司にい"と呼ぶ。兄さんは私の六つ年上で今は公務員をやっている。上司に頼んで仙台市の市役所で働かせてもらえるようになったそうだ。
うちの家族は何かと過保護なので、宮城に戻りたいと話したときも散々だった。それで兄さんと一緒に暮らすということでまとまったのだが…
兄さん転勤がなかなか決まらず五月の中頃までずれ込んでしまったらしい。
大雑把な内容をみんなに説明しているとジャージのポケットのスマホが振動して電話の着信音が大音量で鳴った。