第2章 音駒の彼ら。
あの後、何試合も戦ったが、一度として烏野が勝つことはなかった。でも彼らは諦めずに最後まで、落ちるその瞬間まで、ボールを追い続けていた。
試合が終わって音駒メンバーの帰る時間が近づいてきた。そんな中で、私はクロと研磨からの尋問を受けている。
「…はぁ、何となく状況は分かった。でも推薦が無くてもアカリの学力なら音駒くらい余裕だったんじゃねーの?」
『うん…でもクロと研磨の傍にいたら嫌でもバレーしたくなっちゃうからさ。それだったら宮城に戻っちゃう方が妥当かと…』
バレー漬けの彼らを見ていたら、医者にいくらダメだと言われていても誘惑に負けてしまう。そうしたら折角のリハビリも意味がなくなってしまう。何のために我慢していたのか分からないし、本末転倒だ。
「アカリの言い分は分かった。でもそれならそれで連絡くらいしてよ」
『ハイ、研磨サン。モウシマセン』
研磨の鋭い目の迫力に私は頭を下げた。今回ばかりは私が悪い。
顔を上げるとクロがごそごそと小さな紙に何かを書いていた。ほらよ、と差し出されたそれはクロのメールアドレスだった。
「おまえ携帯持ってんだろ?アドレスくらい登録しとけよ」
「あ、おれのも」
掌を前に出すと二人のアドレスの書かれたメモがポトリと落とされた。じゃあな、と言いクロと研磨はバスに向かって歩き出した。二人に手渡されたそれを私はジャージのポケットに大切に仕舞った。
もう、同じ間違いはしない。
大切なことは口にしないと伝わらない。
気付いたときには私はクロと研磨の背中に向かって走り出していた。
『クロっ!!』
振り返った彼の胸に飛び込む。汗と洗剤と彼の匂いが私の鼻を擽った。
「アカリ…?」
『クロ、私頑張るよ、リハビリもマネージャーの仕事も。だから、だからね。元気になったらまた三人でバレーしてくれる?昔みたいに』
息継ぎをしないで私はそこまで一気に言った。クロはどんな顔をしているだろうか。いつまでも大切なことを言わなかった私を怒っているだろうか?そっと顔を上げるとクロがいつもの、あの笑顔で笑っていた。
「いつまでも待っててやる。だからこいつらと"ごみ捨て場の決戦"やるときはおまえも来るんだぞ?」
私は今できる最高の笑顔でクロの言葉を肯定した。クロの後ろの夕陽が、眩しかった。