第2章 音駒の彼ら。
2セット目、着々と点を重ねる音駒に対して烏野は苦戦を強いられていた。
…というのも、始まって早々に翔ちゃんのスパイクがなかなか決まらなくなってきてしまったのだ。田中先輩のレフトからの攻撃や旭さんのバックアタックによって点は入るものの、音駒の守備力が高く、レシーブされてしまう。
そして、何度目かの翔ちゃんの速攻。それは走のブロックにより烏野コートに跳ね返ってきた。
1セット目後半にして走は翔ちゃんのスパイクに指先がかすっていたが、これ程早くにどシャットを決めるとは。
『走ーナイスどシャットだよ!翔ちゃんもファイトぉ!』
「はっはっは、朱里くんはどちらを応援しているのかな?」
『うぇっ、す、スミマセン!』
走を誉めるか翔ちゃんを応援するか迷った挙げ句、両方に声援を送ったら猫又監督に笑われてしまった。
何度も、何度も、翔ちゃんのスパイクは走にことごとくブロックされてしまう。影山くんも焦りが募ってきたのか、いつもなら上手くいくトスとジャンプのタイミングすら合わなくなってきてしまった。
何度目かの影山くんからのトス。翔ちゃんが跳躍し右手をしならせてボールを打つ。でもそれは走のブロックに阻まれて相手コートに届くことはなかった。
そのとき。
『…わ、笑った…っ!』
私は確かに見たんだ。
獲物を狙うような目をした翔ちゃん。
その唇が確かに弧を描いていたのを。
その表情を見た瞬間、ゾクリとした。自分の攻撃が決まらないのにあんな顔で笑うなんて。一体、どんな神経しているんだ、翔ちゃんは。
結局、そのセットも音駒が取った。私は後半の殆どが放心状態だった。