第2章 音駒の彼ら。
抱き締めるクロの腕が緩んだので、そっと上を向いた。クロと私では身長差が20㎝はあるので自然と上目遣いになってしまう。見上げたクロの目元と耳は少し赤かった。
『クロ、泣いた?』
「は?泣いてねーよ、バーカ」
『ばっ…バカって言わないでよ!これでも一応進学なんだからね!』
「え、おまえ進学なの!?アリエネー…」
『何気に失礼なんだけど!もう…』
そんな風に口喧嘩をしながら私はクロの胸に擦り寄った。まるで猫みたいに。何度も、何度も、ごめんねと心の中で謝りながら。
「…もう…どこにも行くなよ…」
普段のクロからは想像もできない弱々しさに私は胸がツキンと痛んだ。そしてここまでクロを心配させているのが自分なのだという事実が尚更苦しかった。
しばらくそうして寄り添っていると、後ろからこの世のものとは思えない絶叫が聞こえた。それも二人分…いや、三人分。
「「「ぎいぃぃぃいやあぁぁぁあ!!」」」
翔ちゃんと西谷先輩と田中先輩が頭を抱えて叫んでいる。その周りのみんなも何となく顔が赤い。この体育館、そんなに暑いかな?
「クロ、そろそろ状況説明して。アカリも」
『あ、研磨!』
クロの腕からひょっこり顔を出すと研磨がウンザリしていた。夜久さんと海さんは普通に驚いている。
『夜久さん!海さんも!』
クロの元から離れ、研磨たちに駆け寄る。そして勢いそのままに研磨に飛び付いた。
『研磨ぁ…ごめんね…ごめんなさい…っ!』
「アカリは何も言わずにいなくなったから。本当に心配したんだからね」
口調は厳しいけれど、研磨が私の背中をトントンと叩く手付きは優しかった。
「どこ行ってたんだよ~アカリ!」
「まさか烏野にいるとはな…」
夜久さんは私の頭をわしゃわしゃと、海さんは苦笑しながらも、その目はあたたかかった。