第2章 音駒の彼ら。
クロと猫又監督を中心に音駒でも最終調整を行っていた。足音をなるべく忍ばせてその環に近づく。
「んじゃースタメンはいつもと変えずにいくぞー。ま、いつも通りな」
「クロ、烏野のマネージャーさん…」
「あ?おお!」
ちょっとおぉぉぉお!
呼ばなくていいからあぁぁぁあ!!
何っで気づかせたのよおぉぉぉお!!!
私は脳内で研磨に悪態をつき暴れまくった。周りに誰もいなかったら壁に頭を打ち付けていそう。
向こうは私に気づいてないのか、笑顔で話し掛けてくる。
「いやー突然悪いね。ウチには女子マネがいないからさー」
やめて。
「君は1年生?」
やめてよ。
「今日はよろしくね」
お願いだから。
その笑顔で私に話し掛けないで。
私には貴方に合わせる顔もないのに。
ずっと俯いたままの私にクロが明らかに困っている。俯いているから分かんないけど後ろの監督や研磨も不思議そうな顔をしているに違いない。
「お、名前きいてねーな…なんつーの?」
そんなの。
訊かなくても貴方は知ってるでしょ?
あれだけ一緒にいたんだから。
。 。
『私のこと忘れちゃったの、クロ?』
「…は、クロ?何でっ」
(そう呼ぶヤツはアイツだけだ。何で初対面のコイツがクロなんて…まさか!)
「おまっ…!?」
『久しぶり、だね。クロ…』
私はゆっくりと顔を上げた。目に映るのは…
真っ黒な髪と瞳のクロ。
「アカリ…アカリっ!!」
『うぇっ!ちょ、クロぉ!?』
気づいたら私は。
クロの腕の中にいた。
「よかった…っ!どこ行っちまったかと…」
苦しいほどに抱き締めてくるクロの頭に手を伸ばし、癖のある髪を優しく撫でた。その力強さがどれだけ心配掛けさせていたのかを物語っていた。
『ごめんね…クロぉ…っ!』
クロの匂いいっぱいの胸に顔を埋める。
いつの間にか私の頬には涙が伝っていた。