第14章 夏休み合宿~五日目~。
頭を撫でてやると、堪えていたものが溢れ出したかのようにアカリは泣き出した。大粒の涙を、ぽろぽろぽろぽろ。後から後からこぼれ出す。
『っうぅ…ふぇぇん……ひっ、ぐす…』
「泣くな泣くな、かわいー顔が台無しだ」
『だっ、てぇ…』
泣くとは思っていなかったのか、月島も赤葦も困り顔だった。
アカリは手の甲でぐしぐしと目をこする。俺はその手を取り、そっと握った。細くてちっさい華奢な手。握りしめたらぽっきり折れそうで。壊さないように、優しく握った。
「ダメだろ、アカリ。そんなにこすったら赤くなって後で痛いぞ?」
『~っでも、ない、てるの、やだっ…』
「分かったから。な?」
『う~っ…くろぉ…っく、ふぇ、ん…』
俺に向かって手を伸ばすアカリ。そーいや、ガキの頃にもこんなことあったな。
あぶねーつってんのに走って、そんでコケた。膝を思いっきりすりむいて、痛い痛いとアカリは泣いた。
研磨がばんそうこうを貼ると、涙でぐしゃぐしゃの顔でふにゃり、と笑った。それから俺に手を出して、だっこ、と言った。
"くろぉ、だっこ、して?"
"ったく、今日だけだぞ?"
ガキだった俺はカッコいいとこを見せたくて、家までおぶって帰った。研磨が何回も代わろうか?と言ったのに、俺が連れて帰ると言い張った。
家に着くと、アカリは笑った。涙の跡がうっすらと残る顔で。
"ありがとぉ、クロ!"
その笑顔を見た瞬間、疲れなんて吹き飛んだ。こいつが笑うなら、それでいいや。
俺の隣で笑ってるなら
それでいいや
懐かしいなと思いながら、俺はアカリを抱きしめた。背中をトントンと叩くと、少しずつ、嗚咽がおさまってきた。
「ごめん…朱里さん」
「僕も、ごめん…」
『二人は、悪くっ、ない、から…』
赤葦と月島が謝ると、気丈にも二人は悪くないと言った。
いつだってそうだった
周りのことばっかり気に掛けて
そんなお前だから
俺は好きになったんだな
そして願わくは
俺が隣にいることを
どうか
許してほしい
そんな願いを込めて、俺はアカリの体温をその身に感じていた。
【黒尾 side Fin.】