第14章 夏休み合宿~五日目~。
ふと、右手に温かいものが触れた。見なくても分かる。大きくて、ごつごつしてて、優しい温かさでいっぱいの、クロの手。昔は頭を撫でられるのが好きだった。…今もだけど。
控えめに重なるそれを、私が右手でぎゅっと握る。それに応えるように、クロも強く握り返してきた。
『ずっと夏休みならいいのになぁ…』
「それじゃあ"ゴミ捨て場の決戦"出来ねーだろーが」
「木兎さんも烏野と音駒と負けたら終わりの試合がしたいって、言ってました」
『それもそうか』
おどけたように首を傾げる。三人でクスクスと声を忍んで笑った。
「…それより、何二人でイチャイチャしてるんスか。手、握ってますよね?」
「赤葦クン、気付かなくていーの!」
『いや、ちが、これはその…』
私が弁解する前に、京治さんが左手を握った。ひんやりとした、京治さんの手が重なる。私は、クロにしてるみたいにぎゅうと握り返した。
しばらくの静寂が辺りを包む。げこげことカエルの鳴き声がする。カエルの声に混じって、誰かの足音が聞こえた。
「何してるんデスカ?」
『蛍くんっ!?』
振り向くと、そこには蛍くんがいた。お風呂上がりなのか、髪はしっとりと濡れているし、頬はうっすらと染まっている。蛍くんは私たちを見下ろして言った。
「…で、夜中に三人で仲良く手を繋いでなんの話をしてるワケ?」
『なんの話…だろう?』
「チョット、僕が訊いたんだけど…」
はぁ、とため息を吐く蛍くん。次の瞬間、視界がぐるりと反転した。後ろに倒れてるみたいだけど、両手が塞がってるから支えられない。頭がぶつかるのを覚悟したけど、衝撃は来なかった。
「それよりもさ、朱里は僕のものデショ?」
頭の下には蛍くんの手、目の前には蛍くんの顔。ぶわっと顔に熱が集まる。蛍くんの唇は、楽しそうに弧を描いていた。