第13章 夏休み合宿~四日目~。
【月島 side】
倉庫の壁にもたれ掛かっていると、中から二人が出てきた。仲直りは出来たようだ。
俺が介入しなくちゃいけないなんて、本当に面倒で手のかかる人たちだ。これなら、日向や影山の相手をしている方が楽なんじゃないかと思えてくる。
男と女って、つくづく面倒くさい。
「……戻ろうかな…」
誰に向けるでもなく言った言葉は、宙へと消えていった。
二人の後をついて歩く。俺の存在には、全く気付いていないようだった。
その内に、黒尾さんが朱里をお姫様だっこした。そして、そのまま体育館へと走り出す。この暑い中、よくもまあそんなに走れる。
そんな気持ちとは裏腹に、少しだけ、本のちょっぴりだけ、羨ましいと思った。
兄貴のことがあってから変わったと思う。努力とか、頑張ればできるとか。そんなのはまやかしで、結局は圧倒的な才能の前にはひれ伏すしかないと思っていた。
でも、山口に言われて変わった。いや、変わるきっかけを得られたのかもしれない。
木兎さんは、バレーにハマる瞬間があるか無いかだと言っていた。たしかに、どシャットがいったときは、少し嬉しい。その感覚は、朱里のお陰もあるのかもしれない。
そういえば、朱里はキスをしたとき拒まなかった。抵抗したのはほんの最初だけで、あとは流されるままだった。あのトロンと溶けきった顔。あれは理性が危なかった。
朱里の全てを自分のものに出来たら。
いつからそんな、偏った考えをするようになったのだろう。いつから自分は、そんな人間になったのだろう。
もし、あの時黒尾さんが来なかったら。
俺はその先に、手を出していただろうか。
「ハァ…らしくないね」
きゃあきゃあとバカップルみたいにはしゃぐ二人を視界の端に捉え、俺は頭の奥に、それを押し込んだ。
黒尾さんと一緒に笑う朱里。見ているだけで、どす黒い感情が胸の内に沸き出す。
だが、今はまだ、そんなことはどうでもいい。とりあえずは、合宿を終わらせなければ。残りは二日と無いんだ。
頬を叩いて気合いを入れ直す。二人が入った後を追って、俺も体育館に足を踏み入れた。
【月島 side Fin.】