第13章 夏休み合宿~四日目~。
クロは頭を下げたまま、微動だにしない。私も蛍くんも、開いた口が塞がらない。
『え、クロ、叩いたこと怒ってない…の?』
「そりゃあ、馬鹿にされたのは腹立ったけどよ、手え出したのは俺が先だったし…」
語尾に行くに連れて、モゴモゴと口の中でクロが言った。
「あのー、謝るんなら、最初からやらなければいいと思いまーす」
『蛍くんっ!』
わざとらしく挙手して、蛍くんが言った。クロはもう一度、ごめんなと呟いた。
『私もごめん。戸美のことは、ちょっと言い過ぎたと思ってる。私だって烏野がバカにされたら嫌だもん』
自分のチームを貶されたら、誰だって嫌に決まってる。私だって、それを分かった上で言ったんだ。
「じゃー、色々と話もあると思うんで、僕はこの辺でー」
ヒラヒラと手を振りながら、蛍くんは倉庫から出ていった。言うだけ言って無責任な…
開けっ放しになったドアから、光が差し込む。取り残された私たちは、無言で見つめ合った。なんて言ったらいい、かな…
「その、よ。本当に、悪かったな」
『ああ…うん、私もごめんなさい…』
なんとなくお互いに謝罪を言って、また黙り込んだ。沈黙が重たい。
「よっし、とりあえず戻るか!」
あいつらも心配するしな、とクロ。ニッと笑うその笑顔は、どこか無理をしているようにも見えた。
もっと普通に笑ってほしい。だって、大事で大切で大好きな、クロだから。
倉庫の外は日向で、ジリジリと太陽が暑かった。鋭い日差しに目を細める。
歩き出したクロの背中を見て、ふと物足りなさを覚えた。そうだ、いつものアレ、やってないんだ。
『クロ、ん』
「…は?」
私はクロに向かって右手を伸ばした。クロは振り向くと、キョトンとした顔で間抜けな声を出した。
『だから…手、アレ!』
「アレ…って、何だよ?」
クロは本当に分かってない顔。
『だから!仲直りのアレ!』