第2章 音駒の彼ら。
『何もしないまま、刻一刻と受験が近づく。日に日に落ち込む私をチームのみんなや先生が励ましてくれた。それでも、バレーを失った哀しみは無くならなかった。
その頃、私にはバレーの推薦が来ていた。東京都内のバレー強豪校から、何個も。それを全部断った。だって、高校に行ったってバレーはできないんだから。
そして、卒業を迎えた。近所の男の子にも学校のみんなにも何も伝えずに私は東京からいなくなった。
これでおしまい。呆気なかったでしょ?』
「アカリ…」
気づけば私の目からは涙が今にも溢れそうだった。翔ちゃんが泣きそうな顔でこっちを見ていた。いつのまにか歩みは止まり、翔ちゃんの家の前だった。
『結局私は現実から逃げたの。翔ちゃんの言うカッコいい私なんてどこにもいないの。
これが私なの。
狡くて嘘つきで自分勝手で醜くて。
ごめんね…翔ちゃんっ。ごめんねぇ…』
堪えきれない涙が苦い想い出と共に零れていく。泣き出した私に翔ちゃんが驚いていた。でも嗚咽が、涙が止まらない。
「アカリは狡くも嘘つきでも自分勝手でも醜くもないよ。だって、本当のこと教えてくれた。ごめんって謝れるから」
『しょうちゃ、うっく…ごめっ、なさぃ…』
うわぁんと子供のように大声をあげて泣く私を翔ちゃんがぎゅうっと抱き締めてくれた。
翔ちゃんは小さい頃、転んで泣いているときみたいに背中をトントン叩いてくれた。
久しぶりに泣いて、泣いて、身体中の水分が涸れてしまうほど泣いた。
やっと涙が涸れた頃には、翔ちゃんにもたれ掛かってすぅすぅと寝息をたてていた。
翔ちゃんは私を抱っこして(お姫様抱っこだったらしい)部屋まで連れていってくれた。最も、それを知った私は羞恥に顔が真っ赤になって暫く翔ちゃんの顔を見れなかったのだが。