第13章 夏休み合宿~四日目~。
ぶったことにより、クロの顔が左に振れる。振り向いたクロは、若干涙目だった。ほっぺは痛そうなことに、赤くなってる。
「いってーな、何すんだよ!」
『なっ何すんのはこっちのセリフ!』
「ちょっとは手加減しろよこの馬鹿力!」
『うっさいな、先にやってきたのはそっちでしょ、この万年発情トサカ野郎め!』
「ふざけんなよ!」
だんだんと悪口もエスカレートしていく。京治さんや蛍くんは不安気に、木兎さんと翔ちゃんとかはオロオロしてるけど、そんなの構うもんか。だいたいクロが悪いんだから。
『男子ならもうちょっと鍛えなさいよね。そんなんじゃ蛍にも負けるよ』
「俺はモヤシみたいにひょろくありませんー。ついでに言うと、ツッキーは俺には勝てませんー」
『ハッ、どうだかね~?そんなんだから戸美の人たちにも負けるんじゃないのぉ?』
「てめぇ馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!」
ガッと私の肩をクロが掴んだ。ぐっと力を込めて私を揺さぶる。クロが手を上げた瞬間、私は目を瞑った。殴られる…っ!
「おい、黒尾!」
「クロ、そこまでだよ」
いつまでたっても手が降ってこないと思ったら、クロのことを夜久さんと研磨が必死になって押さえていた。
「放せッ一発殴らせろッ!」
「黒尾、女子に対して何してんだよ!」
「こんなヤツ女じゃねーだろ!」
後ろから羽交い締めにされながらも、じたばたと暴れるクロ。体格の問題か、夜久さんと研磨が飛ばされそうだ。
今にも制止を振りほどいてしまいそうなクロに、冷や汗が出た。クロってこんなに力強かったっけ。
「朱里、ここ出るよ」
『えっ、蛍くん!?』
がしっと腕を掴んだのは、さっきまで見ていたはずの蛍くんだった。
「おい月島ァ!どこ連れてく!?」
「そんなんじゃ黒尾さん朱里のこと殴りそうですし。行くよ」
『あっ、ちょっと!』
蛍くんに腕を引かれるまま、私は体育館を後にしたのだった。