第12章 夏休み合宿~三日目~。
京治さんはジャージを椅子の背もたれに掛けて、再び中央を向いた。
『ちなみにコレ、何してるの?』
「ヘイヘイヘーイ、ババ抜きだぜ!」
『なんだ、ババ抜きですか』
そんな風にノリノリで答える木兎さん。その手にジョーカーがあることは、後ろにいる私には見え見えだが。
『木兎さん、心理戦とか弱そうですね』
「俺、木兎さんの隣嫌です」
京治さんは心底嫌そうな顔で呟いた。たしかにこのハイテンションな人から毎回取られるのは、気が引ける。こっちが疲れそうだ。
しばらく観戦していると、スガさんが手札のなくなったところで席を立った。
「悪いけど、俺抜けるな。あいつら騒いでないか心配だし…大地はどうする?」
「いや、俺は少し残ってるよ」
「そうか…あんまり無理すんなよ!」
朱里も早く戻れよ、と言って、スガさんは教室から出ていった。そして、スガさんがいなくなったことによって、緊張感が数割り増しになった気がする。
真剣にババ抜きをする様子がなんだか面白かったので、椅子を一つ借りて、観戦することにした。
次の一戦、木兎さんが出だしから四枚しかなく、呆気なく勝ってしまった。本人はとても不満そうだった。最下位だった海さんに腰を揉ませるなど、王様みたいだった。
その海さんも次の回には抜け、残ったのはクロと大地さんと京治さんと木兎さん。
『ねー、まだやるつもりー?明日も早いよ』
「アカリは戻っててもいいぞ?」
『んー、面白いからもうちょっと見てる』
クロに訊くけど、やめる気はサラサラ無いようだった。
ババ抜きは続き、誰が買って誰が負けたのかなんて、みんなは気にしていなかった。ただ目の前の相手を騙すことだけに、ひたすら没頭していた。
私のまぶたが重くなってきたところで、京治さんがぶっ倒れた。慌てて駆け寄ると、すーすーと寝息をたてていた。
『三人とも、やめにしようよー、京治さん寝ちゃってるよー?』
私の言葉すら耳に届かないようで、クロはカードを切り、三つに分け出した。どうやら夜は長いようだ。
私はため息を吐いて、さっき返したばかりのジャージを、床に倒れる京治さんにそっと掛けた。