第12章 夏休み合宿~三日目~。
『…ふぁ、ねむた』
そういえば、今は何時なんだろうか。あれから京治さんは眠り続けている。試合や自主練習の疲れもあるのだろう。
問題は、三人の主将。いつまでもトランプから手を離さないのだ。
「クソッ、また騙された……」
「ボクはべつに騙したつもりないですよ?」
「じゃあ次は、あかーしの魂も賭けよう!」
『寝てる人の魂を勝手に賭けますか、普通』
どこかいがみ合うような、殺伐とした口調。クロも大地さんも木兎さんも、本来の目的を忘れているだろう。ていうか、なんのためにトランプやってるんだろ?
ふと、ドアの方に目を遣ると、寝惚けた顔の翔ちゃんが突っ立っていた。
「あの、せんぱ…い、ですよ、ね?」
おそるおそる訊ねる翔ちゃん。私が答えようとしたら、それよりも早く、三人はトランプを隠すようにバンッと机に手をついて振り返った。
「だ、誰だ!」
その時、タイミングが良いのか悪いのか、窓から風が吹き込み、カーテンが大きくはためいた。蛍光灯が明滅し、青白く光る。そして、三人の目は、血走っている、というか充血しているだけなんだけどね。
「え?……う、うわ!出た、鬼ーッ!!」
見てはいけないものでも目にしたかのように、翔ちゃんは叫んだ。そして、ドアも閉めずに一目散に逃げ出していった。
廊下を走るバタバタと騒がしい音が遠ざかり、小さくなって、やがて聞こえなくなった。
三人は顔を見合わせ、気まずそうに呟いた。
「日向、あいつ…鬼って言ったか?」
「もうそろそろ寝るかな…」
「そう言われたらなんか眠たくなってきた」
『京治さーん、終わりですよー』
「…んが?」
寝起きの京治さんを除いて、三人は憑き物でも落ちたかのように、すっきりとした顔をしていた。誰からともなく教室を出て、最後の私が電気を消した。
おやすみと短く言葉を交わし、それぞれの教室へと戻り、布団に入る。私も部屋に戻り、布団にくるまった。でも、すぐに暑くなって、上半身を布団から出した。
結局、なんだったんだろう…
あ、明日はUNOでもやりたいな。
そんなことを思いながら眠りについた。
あとで聞いた話だけど、全員が眠りについた頃、一人翔ちゃんは眠れずにいたらしい。
「ト、トイレいけない…」
恐怖と尿意と戦っていたらしい。