第2章 音駒の彼ら。
「なあ、日向の家って遠くなかったか?」
何の気なしに大地さん言ったっぽかったが、それは意外と大事な問題だった。
「はい、雪ヶ丘なんでチャリで30分かかります。…え、遠いですか?」
『それを普通は遠いって言うんだよ!!』
まさか烏野から翔ちゃん家まで自転車で30分だとは…電車やバスはともかく、歩くとすれば一時間はくだらないだろう。
『う~…頑張る。翔ちゃんと一緒に…とはいかないかもだけど、これでも体力には結構な自信があるんで。小中と一応バレーで鍛えましたから!』
「そっか!なら母さんに訊いてみるな」
お願いっ!と両手を合わせれば翔ちゃんは気にすんなーと笑った。やっぱり翔ちゃんのこの顔好きだなぁと思う朝練終わりなのでした。
部活も終わった帰り道のこと。今日の晩ごはんは翔ちゃんの家でご馳走になることに。
自転車30分の距離を歩道に並んでのんびりゆったり歩く。大変だけど、翔ちゃんと話ながらで、しかも話題が途切れない。
『今日の授業で月島くんがね………』
「そんなことあったのか!そういえば今日部活で影山が…」
『あははっ、何それ~!?』
「だろ?」
ころころと話題は目まぐるしく変わる。学校のことから急にアーティストの話になったり、部活のことになったり…。
笑いも絶えず、楽しい雰囲気が続いていたとき。不意に翔ちゃんが真面目な顔になった。あんなに賑やかだったのが嘘のよう。
『翔ちゃん…?どしたの』
「あのさぁ…アカリ何でこっちに戻ってきたの?」
翔ちゃんの問いに私の頭は真っ白になった。ダメだ。ここでバレては元も子もない。焦る心を隠し、必死で取り繕った。
『だっ、だから戻ってきたいなぁって思ったからで…』
「俺、バレーしてるアカリが好き。でも嘘ついてるアカリを見るのはイヤだ」
『翔ちゃん…』
翔ちゃんに真っ直ぐ目を見られる。
翔ちゃんはバレーをする私を好きだと言ってくれた。嘘をついている今、それは翔ちゃんを裏切っていることになるのではないだろうか。私はそれでいいの?答えは否、だ。
『翔ちゃん私ね、翔ちゃんに嘘ついてる。だから本当のこと言ってもいい?』
たったそれだけのことを言うのに、声が震える。翔ちゃんは頷いた。それを見て、私は事の経緯を静かに話し出した。