第12章 夏休み合宿~三日目~。
『へっ、け、京治さんっ///』
「静かに。誰かに聞かれる」
見上げると、妖艶に微笑む京治さんの顔があった。いつもと違った様子の京治さんに、私はドキリとした。
仕方無く頭をつけた京治さんの胸から、鼓動が伝わる。どくどくと鳴るそれは、普段のものよりも早く、感じた。
「…黒尾さんや月島だけじゃありません」
『え?』
「朱里さんのこと、好きなのは」
え、なんて?
聞き間違いじゃなかったら、京治さんは私のことを好き、的なニュアンスのことを言ったけど…?
「嘘じゃない、本当だから」
『だって…っ』
「嫌いだったらこんなことしない、だろ?」
『うっ///』
思わず顔に熱が集まる。耳まで赤くなった私を、京治さんが笑った。
「朱里さん、いや、朱里」
『ひゃいっ!』
呼び捨てにされて、動揺して声が上ずってしまった。びくっとして上を向くと、京治さんが微笑んでいた。
「俺と付き合って」
そう言うと、京治さんは私を壁に押し付けた。次に起こることを予感して、私は目をぎゅっと瞑った。
…けど、何も起こらない。
恐る恐る目を開くと、それを待っていたかのように、唇に温かいものが触れた。目に飛び込んできたのは、目を瞑った京治さんの顔。
咄嗟に離れようとするも、後ろは壁。それにいつの間にか、両足の間に京治さんの足が割り込んでいて、身動きがとれない。
『…んっ』
息をしようとすると声が漏れる。自分のものとは思えない声に、私の体温はまた上がった。
『んぅ…ふっ……はぁっ///』
やっとのことで解放されたときには、私の息は上がりきっていて、体に力が入らなかった。くたりとする私の背中を京治さんが優しくさすった。
私とは対照的に、京治さんはこれっぽっちも息が乱れていなかった。他の人ともこういうことしたのかな。私の心が少しだけ、チクリと痛んだ、気がした。
「じゃあ、俺これから試合なんで…」
返事待ってます、と言い残し、京治さんは去っていった。
はぁ、とため息を吐いて、ずるずると壁を伝って床に座る。しばらくの間、そのまま放心状態の私だった。
(あんな声、反則だろ…///)
体育館に向かう京治さんは、一人悶えていたとか。