第12章 夏休み合宿~三日目~。
『ちょっとリエーフ!試合だし、カゴ置いてかないでよ!』
「すぐ戻るっす!」
戻る気があるのかないのか、灰羽は日向と水の掛け合いを始めてしまった。
朱里さんは俺に気付くと、会釈をし、駆け寄ってきた。
『こんにちは、赤葦さん』
「どうも。ところで木兎さん見てませんか?」
『木兎さんなら、向こうでクロや大地さんたちと話してましたよ』
「そうですか、ありがとうございます」
朱里さんは第一体育館の方を指差して言った。どうやら入れ違いになってしまったようだ。それは見付かるはずがないわけだ。
『赤葦さんは行かないんですか?』
朱里さんはいたずらっぽい目で、俺を見上げて言った。ふわり、とサイドでポニーテールにした髪が揺れる。
「濡れるのはちょっと…これから試合もありますからね」
『ですよねぇ。ほんと、あの単細胞二人にも赤葦さんを見習ってほしいですよ』
朱里さんの言う"単細胞"に、木兎さんも入っていそうな予感がした。俺は思わず笑いを堪えた。
二人で他愛の無い話をしていると、後ろでバッシャンと大きな音がした。振り向くと、灰羽が日向に飛び掛かっている。
「あ」
『あ』
日向の手を離れたホースは、蛇のように地面を動き周り、水が跳ねた。
『二人とも!なにしてるんっ…きゃ!』
俺が庇う間もなく、朱里さんは頭から全身びしょ濡れになっていた。
『翔ちゃあぁぁぁん、リエーフうぅぅぅう!』
「「ゴメンナサイッ!!!」」
普段優しい人が怒ると怖いと聞いたことがある。朱里さんが正にそれだった。