第12章 夏休み合宿~三日目~。
【赤葦 side】
セット間の休憩中。木兎さんの姿が見えないので、離れのトイレを見てきた。でもどこにも姿はない。一体どこ行ったんだあの人は。
目を離すとすぐコレだ。
はぁ、とため息を吐いた。仕方が無いので第一体育館に戻ることにした。
渡り廊下を歩いていると、猫背になっている灰羽と朱里さんがいた。二人はドリンクの入った重たそうなカゴを運んでいる。
音駒に女子マネージャーがいない。だから、普段は雑用のほとんどを1年生がやらなければいけないのだろう。大変だろうな。
賑やかな声が聞こえてきたので、声のした方に目を遣ると、上半身裸になっている森然の部員たちがいた。水飲み場からホースを伸ばし、水を掛け合っている。
時折、水滴が太陽光に反射してキラリと光る。俺は、夏休みなのだと今更ながら思い出した。
「わ、ホントだ!ぬるい!」
一際元気な声がしたので、誰かと思うと、烏野の10番(木兎さんや黒尾さんはチビちゃんと呼んでいるが)の日向がいた。
裸足で水浸しの地面に降り、頭から水をかぶる姿は、とても涼しそうだった。
それに気付いたのか、灰羽はギョッとして、森然の主将、小鹿野さんに声をかけた。
「髪の毛クルックルになってますけど?」
「うるッせーよ!分かってるよ!」
顔を真っ赤にする小鹿野さんに、日向は灰羽には悪気はないのだと弁解する。そして、灰羽に向かって水をぶっかけた。