第11章 夏休み合宿~二日目~。
「小学生の頃に明光くんの出ている試合を見に行ったんだ。どれだけ強いんだろう、カッコいいんだろう。俺たちはすごくドキドキして、会場に行ったんだ。でも、明光くんはコートになんかいなかった。コートにいるのは明光くんの後輩の"小さな巨人"。明光くんの姿はベンチにもいなかった」
観客席でメガホンを手に応援していたんだ…
朱里に微かに届く声で俺は言った。息と一緒に吐き出すように。
「それからだよ、ツッキーが努力とか信じなくなったのは。持って生まれた非凡な才能には敵わないって。無駄な努力に時間を費やすのは勿体ない、って…」
そうだったんだ…と、朱里ぽつりと呟いた。微かな月明かりだけが頼りな薄暗い中で、俯いたその表情を読み取ることは出来なかった。
『前にね、烏養コーチが言ってたの。"合格点はとるけど100点は目指さない"って。それは明光さんのことがあったからなんだね』
知らないからって私酷いこと言ってたかも…
震える涙声になりながら朱里は振り絞るように言った。
「…あのさ、朱里なら、今のツッキーになんて言う?」
『なにも、言わないかな…』
さっきまでのが嘘の様にあっさりと言った朱里に俺は言葉を失った。
『えっと、あのね。今の蛍くんは本当にバレーがやりたいのか、分からないから。やりたくない人に無理矢理やらせたって、仕方無いでしょ?』
その言葉に、思わず俺は呟いた。
「ツッキーはバレーは嫌いじゃない、はずなんだよ。そうじゃなきゃ烏野に来ない」
『山口くんは?』
「え?」
不意に名前を呼ばれ、俺は訊き返した。
『山口くんなら、なんて言うの?』
「俺は…」
ぐっと下唇を噛む俺に、朱里は微笑んだ。
『山口くんなら、今の蛍くんに相応しいことを言ってあげられると思うよ』
幼馴染みなんだからね!と言って、朱里は俺の横を通り過ぎて行った。
俺はしばらく足がくっついたように、その場に立ち尽くしていた。
【山口 side Fin.】