第11章 夏休み合宿~二日目~。
歌い終わったところで、体育館に戻ろうと向かった。そこには、しょげた様子の山口くんが佇んでいた。
『あれ、山口くんジャンフロの練習は?』
「あーうん、ちょっと…」
山口くんはゴニョゴニョと語尾を濁した。何かあったのかな?
『もしかして、蛍くんと何かあった…とか?』
私の言葉に一瞬目を見開き、それから小さく頷いた。一度だけ。
「朱里もさ、さっきのは見てたよね。ツッキーにはお兄さんがいるんだ。明光さんっていうんだけどね…」
そう言って、山口くんは蛍くんとお兄さんの間にあったことを話し始めた。
【山口 side】
正直言うと、こんなことを朱里に話していいのか分からない。ツッキーなら勝手に人のプライベートに首突っ込まないでよ、とか言いそうだ。
でも、この気持ちを誰かに言いたかった。
誰でもいいから、聞いてほしかった。
「明光くんは中学でバレーをやってて、エースって言われてたんだ。それで、烏野に入学したんだって。当時の烏野は強豪校だったんだ。明光くんはツッキーに"自分はエースで頼りにされてる"って話してたみたいなんだけど、実際は違ったんだ」
そこで一旦言葉を区切った。朱里は相づちを打ちながら、真剣に話を聞いている。ツッキーのことをこんなにも考えてくれる人がいる。そのことが、今の俺には嬉しかった。