第2章 音駒の彼ら。
放課後の部活後、私は武田先生と烏養コーチに練習試合について訊ねていた。
『音駒との練習試合って具体的にはいつ頃なんですか?』
「ウチのバレー部がゴールデンウィークに毎年強化合宿を行っているのは知ってるか?」
『はい。この前頂戴した年間の大まかなスケジュールにありました』
そうか、と頷いて烏養コーチは続けた。
「俺の高校の同級生が音駒にいてな、練習試合を組んでもらったんだ。日付は合宿最終日になる。朱里の知り合いがいるんだったか?」
烏養コーチの質問に私は目を泳がせた。そして周りをキョロキョロ見て誰もいないのを確認してから話し出した。
『音駒の主将とセッターにそれぞれ黒尾鉄朗と孤爪研磨って人がいるんですけど、私の家がその二人の近所だったんです。それで小学生の頃から良く面倒見てもらって』
「朱里さんはその二人にバレーを?」
武田先生の質問に私は頷いた。私のバレーのルーツは実を言うとその二人なのだ。
『何から何まで教えてもらったんです。私には東京の高校からオファーとか来てたんですけど、中学最後の大会でムリしちゃって…暫くの間激しい運動は禁止にされて推薦も取り消し、挫折して帰ってきちゃったワケです』
私は自嘲的に言った。
『二人には何も言わずにこっちに戻ってきたので会いたくないなーってことです。…これみんなに内緒ですよ?』
悪戯っ子のように笑った私に烏養コーチと武田先生はどう反応して良いか困っていた。
「辛かったことをわざわざすいません。このことはここだけの秘密で」
『はい。先生、烏養さん、サヨーナラー』
荷物を持ち、私は振り返らずに駆け出した。