第9章 夏休み合宿~出発~。
声をかけるのは大いに躊躇われたけど、そのまま立ち尽くす飛雄くんを見ると、声をかけた方がいいと思った。
『えーっと…飛雄くん、帰ろう?』
「…おう」
そう言うと、飛雄くんは深く考え込んだ様子で歩き出した。兄さんには帰っていいよと言われたので、大丈夫だろう。
途中で別れて家に帰った。誰もいないけど、つい癖でただいま、と言ってしまった。
手を洗って自室に戻り、ベッドにぼふんと倒れ込んだ。週末合宿からいろいろありすぎて、頭の整理が追い付かない。
『はぁ…速攻、か…』
ごろりと寝返りを打って、仰向けになる。スマホがぴろりん♪と鳴ったので開くと、さっき別れたばかりの飛雄くんからだった。
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To:日向朱里
From:影山飛雄
件名:
さっきコーチに会った
日向の打点を通るんじゃなくて、打点で止まるようにしろって言われた
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文面を見て一瞬、どういうことか解らなかった。何回か目で文を追うと、ようやく理解できた。今の変人速攻は、翔ちゃんの打点を通過するトス。それだけでもすごいのに、今度はその打点で止めろというのだ。
球の勢いを打点ぴったりに止めるのは容易なことではないだろう。いくら天才の飛雄くんでも苦戦は間違いないと思う。
それでも、今は新速攻への手がかりを見付けたことが、嬉しかった。
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To:影山飛雄
From:日向朱里
件名:Re:
そっか
大変な練習になると思うけど、頑張れ!
応援してるよo(*⌒O⌒)b
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メールが送られたことを確認して、画面をオフにした。そっとスマホを握る。
上手くいきますようにと願いを込めて。