第9章 夏休み合宿~出発~。
猛くんにサーブをレクチャーして、30分。飲み込みが早く、ちょっとの時間でも随分上達した。
「アカリちゃんすげー、徹よりすげー!」
『ふふ、これでも中学はセッターだったの』
「それで上手だったのか!」
納得、といった表情で徹さんが言った。そろそろ帰ろうかな、と思って屋内施設をあとにする。
「徹、やっぱりまだサーブ教えろよー!」
「まだやるの!?」
『暇なんだったら教えてあげたらどうですか』
「朱里ちゃん、傷口抉らないで!」
ドSめ!とかなんとか徹さんが吠えているけど、弄られるような反応をする方が悪いんだと最近思う。
ふと、うわーんと泣き声が聞こえたので慌てて駆け寄ると、そこには飛雄くんがいた。
『飛雄くんっ、泣かせたの!?』
「いや、俺は、ただ…」
しどろもどろになる飛雄くん。まあおおよそ見当はつくけど、目つき悪すぎて泣かせちゃったのがオチだろうな。
よしよしと撫でてあげると、男の子は落ち着きを取り戻した。お母さんらしき人がぺこぺこしながら手を引いていった。
そうしている間に、徹さんと飛雄くんは、なにやら真剣な顔で話していた。
「―――勘違いするな。攻撃の主導権を握ってるのはお前じゃなくチビちゃんだ。それを理解できないなら、お前は独裁の王様に逆戻りだね」
冷たい目でそう言い捨てると、徹さんは猛くんを連れて去っていった。後には呆然と立ち尽くす飛雄くんが残された。
随分前になるけど、飛雄くんを"コートの上の王様"と蛍くんが言っていた。それは中学までの話でしょう?と返したけれど、まだそれが残ってるのかもしれない。
翔ちゃんと会って変わったんだろうなぁと思ったけど、実は奥の方では悪い癖が残っていたのかもしれない。
スパイカーを自分で操ろうとする、
悪い癖が。