第7章 トーキョー遠征。
翔ちゃんが目を開けての変人速攻をしようとしているのが分かった。でも、二人のテンポがまるで噛み合わない。たった一つの動作を加えただけで、こうも合わないのか。
「くっそ、影山、もう一回ッ!」
無言でトスをあげる影山くん。その表情にだんだん苛々が募っていくのが傍目にも分かった。
「おい日向、もういいだろ。俺がブロックに捕まんないトスを上げてやる!」
ついに耐えかねたのか、影山くんが声を荒げた。
「春高の一次予選は来月だ、すぐそこだ。そん時武器になんのは、完成された速攻と現時点で全く使えない速攻、どっちだよ!?」
息も荒く捲し立てた影山くんに、私はなにも言えなかった。影山くんの言い分は最もだ。最もすぎて、逆になにも言えない。
「それじゃあ…それじゃあッ、俺は上手くなれないままだ。俺は自分で戦える強さが欲しいッ!」
影山くんに翔ちゃんも食い下がる。翔ちゃんが自分の力で跳んで、戦いたいのはすごく分かる。でも、それが集団として考えたときにどうなるのか。
一人のために勝利を諦めるか、
勝利のために一人の主張を切り捨てるか。
そもそもバレーとは、チームでするスポーツだ。チームプレーが出来ないことは、すなわちバレーができないこと。
いつまでたっても主張を曲げない翔ちゃんに、ついに影山くんの堪忍袋の尾が切れた。
「ッざけんなよッ!!」
影山くんが翔ちゃんの胸倉を掴んだ。
「うるさいッ!!」
翔ちゃんは影山くんにタックルを見舞った。
『お願い、やめて二人とも!』
「るせー、朱里は引っ込んでろ!」
「アカリは口出すな!」
ダメだ、二人とも私の制止を聞いてくれない。それどころか、取っ組み合いの大喧嘩になってしまった。
『誰かっ、田中先輩っ!!』
「朱里?どうし…おい、お前らッ!」
たまたま通りかかった田中先輩の仲裁のお陰で、なんとか収まった。というか、この件はうやむやになった、の方が正しいと思う。
そして、最後まで二人は口を利かず、影山くんは足音荒く体育館から出ていった。田中先輩も後を追って体育館を去った。
『……帰ろっか』
「…うん。暗いし、送るよ」
言葉少なに会話をし、私たちは家路を歩いた。