第7章 トーキョー遠征。
帰り道、さっきの喧嘩があるから、お互いに気まずい…
自転車を押しながら、私は翔ちゃんの数歩分後ろを歩く。キキキキ…とタイヤの回る音と、二人分の足音だけが、夜の静かな住宅街に響く。
「さっきはごめんな、あんなこと言って」
『ううん。別に、事実だし』
謝った翔ちゃんに、私は嫌味ったらしく返してしまった。しまった、癖が出た…
「それは、本当にゴメン…」
『いやいや、翔ちゃんは謝らないで。今のは私が意地悪だったよね』
苦笑いしながらそう言うと、ぽつりぽつりと翔ちゃんは話し出した。
「影山とは中学の時に試合で会ったんだ。初めての試合でぼっこぼこにされて、高校に行ったら、絶対倒してやるッて思った。でも、いざ烏野でバレー部に入ったら、あいつがいたんだ、影山が」
そこで一旦、言葉を切った。翔ちゃんの表情は見えないけど、思い出を懐かしむような、そんな声だと思う。
「再開しても、やっぱり感じ悪くて。つーか予想以上に感じ悪いしで散々だったよ。けど、試合になると、影山が何考えてるか解るっていうか…」
初めて"友達"じゃなく"相棒"が出来た気がしてたんだ…
翔ちゃんのその言葉は、空気に溶け込むように、吸い込まれるように宙に消えていった。
マンションの前に着くと、翔ちゃんは来た道を戻ろうと、自転車に跨がった。
『送ってくれてありがと、疲れてるのにごめんね』
「ううん。アカリ待たせたのはおれだから」
『晩ご飯、食べてく?』
「いいよ、母さん用意してるだろうし」
そっか…と私が呟くと、会話が途切れた。空気が重たい。
『翔ちゃん』
「ん?」
『あ…ま、また明日ね』
「うん、おやすみ」
『おやすみ…』
遠ざかる翔ちゃんの背中に、私はなにも言えなかった。明日は練習は休みだ。でも明後日は?明後日はどうなるの?
不安でいっぱいのまま、私は眠りに就いた。