第7章 トーキョー遠征。
あー、なんかふわふわする。
よくわかんないけど、気持ちいい。
あれ、私空飛んでる。
真っ黒なつばさが生えてるや。
バサッバサッと羽ばたいて空を滑空する。飛ぶのってこんなにも気持ちがいいんだ。
こんなのって現実にはあり得ないよね。ということは、これは100%夢ですね、はい。
しばらく自由に大空を飛んでいると、周りにいつの間にか多くの鳥が飛んでいた。
私より一回りも二回りも大きな烏。
対称的で真っ白な白鳥。
澄まし顔の梟が、一羽、二羽。
愛らしい雀が群れで。
楽しく飛んでいると、なんだか腕、いや、翼が重たくなってきた。
『カアッ!?(ええっ!?)』
喋ったつもりでも、口から出たのはカァという烏独特の鳴き声。
真っ黒だった羽毛が、だんだんとジャージに変化していく。嘘、なんで!?そして、翼も腕へとみるみる変わっていく。
『ヤバいヤバい落ちる落ちる落ちる!』
私の叫びも虚しく、風を掴んでいた翼は完全に人間のものとなり、それに伴って私は落下を始めた。急に怖くなってギュッと目を閉じる。
落下中の私に、どこからか声か聞こえた。懐かしいような、私を待っている声。
その声は、朱里、朱里と何度も呼び掛ける。そして、何もないはずの空中に、ぼんやりと黒いシルエットが見えた。
おいで、と呼ぶように両手を広げるその影に最後の望みを賭けて、私は抱き付いた。
抱き付いたそれは、温かくて、鼻腔をくすぐるいい匂いがする。優しくて、落ち着くような。
『……んふ…ふふ……ぃぃにぉい……』
「いつまで寝てるの、ホラ起きてヨ」
気だるげな声が聞こえたかと思うと、ふうっと耳に息を吹き掛けられた。
『…うひゃあっ…ぇ…え…ええっ!?』
私は温かくていい匂いのする物の正体に気付いて跳ね起きた。
「ふぅん、本当に寝起き悪いんだ」
そこにいるのは、意地悪そうな笑みを浮かべた蛍くんだった。