第7章 トーキョー遠征。
【月島 side】
朱里は寝起き悪いらしいから気を付けてね、と言うと、すぐに寝息をたて始めた。
今日は音駒や梟谷の主将と練習をしていたらしい。後で日向から聞いた話だけど、よくもまあ朝から跳び回れる。
この時ばかりは、朱里と日向のスタミナバカっぷりは、いとこなだけあって似ているのかと思った。
それより、寝起きが悪いから、と隣の席の僕に忠告してくるなんて…じゃあ寝なきゃいいのに。
さっきまで明るかった空は、徐々に薄暗くなり、紺色の闇が東から空を覆う。久し振りに見た夕焼けは、いつもより綺麗に思えた。
烏養コーチと武田先生の話し声が聞こえる。みんな寝ていると思っているのか、ずけずけと烏野の弱点を挙げては、ああでもないこうでもないと思案している。
そんな中で、僕の話が出てきた。
「月島もなあ、もう少しこう、なんだ?頑張ればいいだろーにな」
「彼には彼の思うところがあるんでしょう。にしても、188㎝でしたっけ?勿体ないですよね。僕に分けて欲しいですよ」
もう少し頑張る?
くだらない、たかが部活じゃないか。
そんなものに何故本気になるんだ。
日向や影山だってそう。
試合に負けただけ、しかも相手は強豪校。
勝てるハズないと、知っていただろう。
ばかばかしいや。
そう思って先生たちの声を、意図的にシャットアウトしようとする。だが、しようとすればする程、"勿体ない""頑張れば"という声が脳裏にこびりついて離れなかった。
結局、あれから僕は一睡も出来ていない。それはバスがガタガタ揺れるからなのか、隣の朱里がもたれ掛かってくるからなのか、はたまた先程の会話からなのか。
とにかく眠たかった。二日間の弾丸合宿は思っていたよりも疲れた。再来週には今回よりも長い、一週間の夏休み合宿。先を思うと、ため息を吐かずにはいられなかった。
「学校に着きますよ、みなさん」
「おら、起きろ起きろ!」
烏養コーチと武田先生が声をかけると、うだうだと部員たちが起き出した。
「ホラ、朱里、学校だって」
華奢な肩を揺さぶると、うにゃうにゃと呟きながら、朱里が僕に抱き付いてきた。
そうだ、イイコト思い付いた。
僕はふぅっ、と朱里の耳に息を吹き掛けた。
【月島 side Fin.】