第7章 トーキョー遠征。
「うわー俺スゲー勿体ないことしてる」
『私もそう思う』
「なー、今もう一回してもいい?」
あまりに真剣な顔で訊いてくるから、ちょっと、ちょっとだけドキッとした。
『真面目になって訊いてもダメです』
「一瞬、ほんの一瞬だけ!」
『だーめ』
「クロ諦め悪いよ」
『ほら、研磨にも言われてやーんの』
「くっそう…」
やけ食いだ!とクロはカレーを掻き込んだ。後で食べ過ぎたって苦しくなって、自主練出来なくなっても知らないっと。
どさくさに紛れて、こっそりクロのお皿にトマトは移住させておいたんだけどね←
『ご馳走さまでした』
お皿を下げに調理場に行くと、不意に後ろから誰かに抱きしめられた。何も喋らないけど、身長とかでなんとなくわかった。
『…蛍くん?』
「…さっきのって、ホント?」
『うん。ホントデス』
「僕が初めてじゃないんだね」
あんなに初々しかったのに…と呟いたのは、聞かなかったことにしよう。
「この前も言ったけど、付き合わない?」
『ごめんね、今はそういう感じじゃ…』
「そっか…」
するり、と背中からぬくもりが離れた。後ろを振り向くと、蛍くんがニヤリと挑発的な笑みを浮かべていた。
「なら僕を好きにさせてみせるよ」
『出来るものなら、お好きにどうぞ』
だから、私もあえて挑発した。
これは素直じゃない、素直になれない私たちのカケヒキだから。