第7章 トーキョー遠征。
翔ちゃんと影山くんが体育館の外に出るのが見えたので、慌てて追いかけると、側にはスガさんもいた。
のこのこ出ていくのもなんだか申し訳なく思えたので、物陰からこっそり窺うことにした。
「…気づいたら負けてた」
ぽつりと聞こえた翔ちゃんのそれは、インハイの青城戦のラストのこと。目を瞑ってスパイクを打った翔ちゃんには、三枚の壁は勿論見えてなかっただろう。気がついたら負けてた、なんて、悲しすぎる。
本音をもらした翔ちゃんに、影山くんも自身の思うところを返した。
「青城戦で、スパイカーの100%の力を引き出すのがセッターだってちょっとわかった」
徹さんのあの正確無比なトスを見たら、誰だってすごいと思う。そして、影山くんの神業的なトスも同じ。
「あの速攻にとって"ほんの少しのズレ"は"致命的なズレ"になる。だから、あの速攻にはお前の意志は必要ない」
言葉では冷たく突き放しているように感じるかもしれない。でも、実際にそうだ。翔ちゃんの軌道をよんでの影山くんのトス。翔ちゃんが意志を持って打とうとすれば、自ずと小さな誤差が出る。そして、その誤差が致命的になってしまうのがあの速攻の欠点。
二人の意見を聞いた上で、スガさんが意見をまとめた。
「俺は二人の速攻を軸に、他の攻撃を強化するべきだと思う」
そして、いつからいたのか、烏養コーチもスガさんの意見に納得だった。
四人のやり取りを聞きながら、私は以前聞いたことを、ふと思い出していた。
スパイカーの中には、稀にくっきりとスパイクが決まるのがわかる人がいるらしい。
空中にいる一瞬で、ブロックの指先を認め、捕まらない位置を瞬時に悟り、その位置をドンピシャで叩く。
もし、翔ちゃんがそうなったら。
もし、目を開けての速攻が出来たら。
私はそう願わずにはいられなかった。