第6章 恐怖の期末テスト。
ガチャリ、とドアが開く音がして、眉を寄せた山口くんがひょっこりと顔を覗かせた。
「ツッキー遅いからみんな心配してるよ?」
「ごめん山口、探し物してて」
「え、そうだったんだ。もう見つかった?」
「うん。すぐ戻るから先行ってて」
あとでね、と山口くんは来たときと同じようにバタバタと走り去っていった。
一気に気が抜けた私は、ずるずると壁を滑り落ちて床にヘタリと座り込んでしまった。
そうだ、と思い出したように、蛍くんは私に歩み寄った。
『な、何!?』
「忘れ物、してた」
『えっ…』
何を、と訊く前に、蛍くんは動いていた。しゃがみ込む私のおでこに、ちゅっと小さくキスをした。
「これでチャラにしてあげる」
『~っ///』
おでこにてを当てて、真っ赤になって俯く私を、蛍くんは思いっきり笑った。
「アハハッ、アハッ、ハハハ…」
『ちょっと、蛍くん笑いすぎでしょ!』
「何その顔、ウケるんだけど」
むぅっと頬を膨らませると、ふにっとつままれた。
「僕は笑った顔が好きだから」
小さく微笑むと、じゃあね、と言い残し、蛍くんは部室から出ていった。取り残された私は、しばらくの間、呆然と床に座り込んでいた。
体育館に戻って部活が始まってから、ずっと考え事をしていた。いろんなことが起こりすぎて、訳がわからない。
好きって言ったら誤解されて、
蛍くんにキスされて、
最後に笑った顔が好きだって。
急に、強引に、あんなことをされたのに、不思議と私はちっともイヤじゃなかった。そのことが、私をひどく動揺させた。
「朱里ちゃん大丈夫?赤くなったり青くなったり、具合悪そうだけど」
『ハッ、潔子さん!大丈夫です!』
そっか、と潔子さんは手元のノートに視線を移した。今は部活中、しっかりしなくちゃ。頬をペチンと叩いて、気合いを入れて、その後はなんとか乗りきった。