第6章 前方注意
~家~
貴)「…ただいま」
“本日貸切”とかかれた板がぶら下がっているドアを開けると同時に、フワリといい匂いがする。
…それと同時に、馬鹿煩い声とお酒の匂いも。
シ)「おう、クレア!!お帰り!」
私がドアで立ち止まっていると、その馬鹿煩い声が私を呼んだ。
貴)「…ただいま。」
無愛想にそう言って、カウンター席に座る。
母)「あら、お帰りクレア!」
すると厨房で料理を作るお母さんの姿。
私の家は酒場を経営してる。
夜こそお酒を出すが、昼間はそこらのレストランに負けないくらい美味しい料理を出している。(お母さんが)
たまにお店の手伝いをするけど、今だに母の味は出せない。
お母さんの料理は世界で1番美味しいと言っても過言ではないと思う。
貴)「…お母さん、私作るよ」
母)「何言ってるのよ!今日くらい作らせて?」
そう言って、笑う。
やめてよ、お母さん。
シ)「おーい!ビールもう1杯!」
やめろよ、お父さん。
母)「はーい」
やめさせなよ私。
何も出来ない私をよそに、ピリオドはつけられることなく時間は流れた。
時間の流れは遅くなく。
かといって速くもなく、
ちょうどいいわけでもない。
何ともいえない、もどかしいような速度で私を苦しめながら、進む。
宴という馬鹿騒ぎは終わり、お父さんが率いる海賊団は船で寝るらしく、店をあとにした。
貴)「お母さん、片付けは私がやるからもう休みなよ」
母)「ごめん、クレア…じゃあ任せてもいいかしら…?」
貴)「うん、お疲れ様。おやすみなさい」
お疲れ様。
本当に。
駄目だよ、お母さん。
そんな病弱な体で、無理したら。