第15章 けんもほろろ
猿轡を解いても返事はない。
視線さえ合わない。
前は見慣れていたはずなのに、どうしても表情豊かなクレアちゃんを思い出して仕方なかった。
記憶忘れさせられて恨んでるよね。
急に記憶が戻って戸惑ってるよね。
火拳が死んで悲しいよね。
わかってる。
色んな感情に悩まされてるのも。
…クレアちゃんが優しいことも。
優しいから、苦しいんだよね。
数日間、隣で過ごしていた俺たちが、
いきなり敵になったことが。
敵のはずの俺たちと笑っていたことが。
もう、前みたいに笑えないことが。
苦しいんだよね、辛いよね。
…わかってる、わかってた。
記憶を消すことで優しいクレアちゃんを苦しめることも。
でも、ごめん。
これは、船長の。
大切な、大切な計画なんだ。
…もう、後戻りは出来ない。