第13章 差し引きゼロ
目の前で起きた出来事についていくことが出来ず、呆然としていた。
そんな私を見てローは口を開ける。
ロ)「…何された」
貴)「べ、つに…なにも……」
ロ)「じゃあ何でベットの上にいる」
少し苛立ちの籠った声でそう言われ、ふと考える。
思えば押し倒されてキスをされかけた。
ローじゃないと気づかなかったら、ペンギンさんはそのまま続けてたのかな…
ロ)「…お前は無防備すぎだ」
そう言うとローは棚から救急箱を取り、ベットの向かいの椅子に腰を下ろす。
ロ)「腕出せ。…傷診てやる」
貴)「うん……」
アルコールの浸った綿球をピンセットで傷周りに押し付けられ、固まった血を拭いてもらう。
ロ)「傷口を抉るな」
貴)「…うん」
汚れた綿球を捨て、新しい綿球を出すとまたアルコールに浸す。
ロ)「消毒くらいしろ」
貴)「…うん」
それを今度は傷口に当てる。
ロ)「……傷つけて悪かった」
貴)「…うん」
少しだけ沁みた。
ロ)「だが、勝手に捜索したのは怒ってる」
貴)「……うん」
ロ)「お前には関係ない」
貴)「…………………うん」
涙が溢れそうなのは、沁みたせい。
ロ)「…今は。」
貴)「…?」
ロ)「いつかケリをつける。
…いつになるかはわからない。
だが、もし、その時が来たら。
…その時は聞いて欲しい」
貴)「……!!
うん…………っ」
目から涙が溢れる。
するとローが少し困った顔をした。
ロ)「…泣くな」
そう言って目尻の涙を口付けで拭ってくれる。
違う。
泣いてない。
貴)「うん……っ」
傷口が少し沁みただけだ。