第13章 差し引きゼロ
真剣な表情に私はどこか諦めていた。
本を読みながらゆっくりと歩くローに歩幅を合わせて部屋に入る。
入り口で立ち止まり本を読むローを見上げ、時間を確認するともう日付は変わっていた。
貴)「…寝ないの?」
ダメ元で最後に聞いてみる。
まだ寝ない、と言われたら私も頑張って起きてみようか、寝ようか。
そんなことを考えているも返事が返ってこないことに疑問を感じてまたローを見上げる。
しかしローは本から視線を外して床を見ていた。
貴)「どうしたの?」
何を見てるのか。声を掛けても変わらない視線を辿って私も床を見る。
貴)「……っ!」
数秒かかって思わず息を飲んだ。
最初は“黒い何か”が落ちてると思ったけど、
数秒見つめて思い出した。
箱に入ってた、黒い羽根。
紙と写真しか覚えていなくて、床に落としたのを気づいていなかったらしい。
何も言えないままローを見る。
今朝のことを思い出した。
冷たく、殺気を放った目。
今朝の怒りに油を注いだ。
…今度こそ殺されるかもしれない。
貴)「…………ろー?」
しかし恐る恐るローを見た私の目に映ったのは、
明らかに青白いローの顔色。
それから少しの冷や汗と、どこか荒い息。
まるでトラウマを見るような顔で。
ローの視線は黒い羽根から外れなかった。