第13章 差し引きゼロ
「ふふ、彼氏さんですか?
ならこちらのお花はどうでしょう?」
くすくすと笑う店員さんに思わず顔が熱くなった。
YesともNoとも言う前に店員さんが持ってきてくれたのは、鉢に入った水面に咲く若紫色の花。
「“フジキキョウ”です。
この島にしか咲かない花で、カップルの方に人気の花ですよ。
花言葉は____________…
………
ロ)「買えたか?」
貴)「うん、ありがとう。」
袋に入った植木鉢を手に持ち、入り口のローと合流すると一緒に歩き始める。
ロ)「近くまで船を呼んでる。
今夜、ここを出発するぞ」
貴)「えー、もっとゆっくり見たかったな」
まだ第二島にも第三島にも行けていないのが不満で、口を尖らせる。
ロ)「先を急ぐ。
…ここ程栄えてないが次の島ではもう少し滞在してやる」
ローはそう言うと海岸の方へ歩き出した。
その後ろを機嫌よくついていくとローの背中越しに、船とデッキからベポ君が手を振ってくれているのが見えた。
………
貴)「ねえ、ロー」
もう能力は解いて、自分の姿に戻った。
船に乗り、デッキまで迎えに来てくれた皆と中に戻る途中。
誰もこっちを見ていないのをいいことに、私は背伸びしてローの頰にキスをしてみる。
ロ)「…なんだ」
貴)「……ふふ、なんでもない」
眉間に皺を寄せ、こちらを見るローに思わず笑ってしまう。
嬉しくて、笑ってしまう。