第13章 差し引きゼロ
俺の言葉にクレアちゃんは何度か瞬きをして船長をちらりと見てもう一度俺を見る。
貴)「…ねえ、ローの好みもっと教えて?
私、ローのこと全然知らないから…」
さっきの俺と同じ様に小声で耳打ちする。
俺が驚いてクレアちゃんの目を見ると恥ずかしそうに目を逸らす。
その女の子らしい表情に、思わず笑みを零してしまった。
貴)「わ、笑わないでよ…」
シ)「ごめんごめん、
えっとね。
船長は他に梅干しが嫌い。
好きなものは_________……
俺は怒られてもへらへらした表情のまま話しだす。
無表情なんて保てない。
だって、嬉しいんだ。
たとえ薬の効果だとしても、船長のことを思ってくれて。
そのことについて悩むなんて、
まるで本当に好きみたいじゃないか。
今までそんなことに無頓着だった俺には、
どうしてもそれが甘酸っぱくて。
それでもどこか、心が潤された気がした。