第13章 差し引きゼロ
箱から数枚の写真を取り出す。
埃の匂い。
それと共に、仄かな鉄の匂い。
貴)「あ、目つきの悪さは昔からなんだ。
…ふふ、可愛い」
写真を捲り、2枚目の写真を見ると、集合写真の様なもの。
小さい子供や成人男性、老人まで、色々な人が写っている。
…でもローと1枚目の男の人の2人以外、
皆顔を黒く塗りつぶされていた。
まるで、恨んでいるように、
まるで、見たくないかのように。
肌の一片も見えないほど黒く塗られた人の隣…
…というより、写真の至る所に、涙の痕がある。
染みになった涙の痕をそっと撫でても、もう冷たさも感触も伝わってこない。
ただ、悲しさだけが伝わってきて。
ロ)「おい、何してる」
急に扉の方からローの声が聞こえて慌てて写真を箱に入れて後ろに隠す。
貴)「な、なにも…」
でも次の瞬間には箱はローの手の上に移動する。
私の後ろには代わりにローの刀があった。
ロ)「…どこから出した」
貴)「ほ、ん棚の上から…落ちてきた」
するとローは黙ってその箱をゴミ箱に投げ捨てると顎で私に立ち上がるよう指示する。
ロ)「忘れろ。
さっさと支度をしてこい」
貴)「ちょっ、捨てていいの?!」
立ち上がり、ローに手を伸ばそうとするも背中に触れる前にローが振り返る。
ロ)「忘れろ、と言ったはずだ。」
ローの目に、思わず手を引く。
先ほどの比じゃない。
私を睨み殺しそうな目で見下ろし、無言のまま部屋を出て行った。
今度こそ支度をするべく後をついて行くけれど、横を歩く勇気はなく、
ローの背中について行くように歩く。
恐怖を感じさせる程の眼をしていたのに、
その背中はどこか小さくて、悲しい。
ねぇ、ロー。
私が失くした記憶の中に、
昔のローはいるのかな。