第32章 wolf(八代)
全体の曲を歌いながら、ステージ上に作られた階段を手を振りながら降りる。
縦に長いホール。
後の方まで沢山の光が瞬く。
肉眼では後ろまで、見ることは出来ないけれど。
それでもこの瞬間を待ち望んでいたであろう沢山の笑顔。
沢山のキャストが出るステージだから、つい自分のカラーを探してしまう。
やっぱりどの作品でも人気のキャラはいるもので。
んー。
自分の色は、それ程多くない。
それでもチラホラ遠くに見える色に目を細める。
1曲終われば、トークコーナーへ。
少し離れた自分の立ち位置を目指して、同じチームのキャストと共に移動する。
視線をふと落とせば…
「?!?!」
オレの担当カラーのライトを上げて小さく振る見覚えのある女の子。
こちらを見て一瞬大きくなった瞳を確認したと言うことは、多分ボクの視線に気付いてる。
なるべく平静を装いながら、笑顔を向ければ嬉しそうに今度は小さく手を振る。
思わずつられて、手を振れば肩をすくめて視線をそらす。
「やり過ぎ」
隣にいる宏太朗くんからボソッと注意されれば、今度はボクが肩をすくめる番。
「ごめんごめん。」
「ちょっと知り合いがいて。」
今度は宏太朗くんが視線をカノジョへ向ける。
「ふぅん。でも、仕事中は止めた方がいいよ。」
「分かってる分かってる。」
「もう見ないよ。」
視線を遠くへ向けて、大きく手を振る。
仕事に集中しないとね。
「って!何で紗友ちゃんに手振ってんの!?」
笑顔で手を振る宏太朗くんにすかさず指摘。
「え?………出来心。」
「我慢してるのに!」
「え?紗友ちゃんのこと好きなの?」
「何言ってるの!そもそも名前で呼ばないでよ!」
黙らせるため宏太朗くんの肩を抱けば、モニターに抜かれた。
悲鳴や歓声が上がる会場に置かれた立場を理解する。
「仕事中でした。」
遠くから突き刺さる他のメンバーの視線をかいくぐりながら、カメラに手を振り指定された場所に戻った。