第28章 Halloween(神谷)
テーブルに置いたキャンドルの灯り。
大したセッティングは、出来なかったけど。
それでもあなたと過ごす時間を特別なものにしたいの。
「Happy Halloween!」
「………。」
「Trick or Treat!」
「……………。」
向けられる視線は凍えるように冷たい。
「もぅ!神谷さん何とか言ってくださいよ!」
「滑稽極まりなくて呆れ果ててるところだよ。」
そう言って、笑ってくれるけど目は笑ってない…
その細められた奥の瞳には何が隠れてるんだろう。
神谷浩史さん。
私の好きな人。
ものすごく忙しい人で。
年上って事もあるけど、落ち着いてて。
いつも周りを気に掛けていて。
いつも皆に慕われている。
そんな人の隣にいられるのは嬉しいけど。
いつも不安で仕方が無い。
今日はHalloween。
日本人だから関係ないって言われたら、それまでだけど…
あなたと一緒に過ごせる口実の為なら、アマゾンの奥地のお祭りだって探してきたいくらいなんだから。
それなのに…
「で?その恰好は何?」
「ジャック・オー・ランタン!」
「魔女とかネコとかゾンビとか…そう言うんじゃ無いんだね?」
「そんな在り来たりな仮装なんてつまらないですもん。」
「それも在り来たりな気もするけど。」
裾がバルーンのようにフワッとしたワンピースを指先でつつく。
「ね?紗友?」
「知ってる?」
「ジャック・オー・ランタンのお話。」
瞳の奥は何かを秘めた色を見せた。
「え?知らないです…」
「本当は、カボチャじゃなくてカブで作ったんだって。」
「もっと詳しく知りたい?」
「え…何でカブかは知りたいですけど…」
「じゃあ、教えてあげる。」
「こっちにおいで?」
手招きされるまま、神谷さんの前に座って両腕に包み込まれると同時に部屋の照明を落とす。
「ちょっと!何で消すんですか!?」
「雰囲気は必要でしょ?」
「それにキャンドルに火を灯したのは紗友だし。」
テーブルの上に置いたキャンドルが怪しく光る。
「では、始めよう。」
「昔々のお話。」
「これは…」
「遠い異国のお話です。」