第10章 はじまりのうた(吉野)
「よっちんさ。今日は、紗友に俺たちと飲むって言ってあんの?」
「言ったよ。一方的に俺が独り言言っただけだけど。」
「は?」
「『裕行さんには裕行さんのお付き合いがあるので干渉するのは、如何なものかと』みたいな事言われたから。」
「いつもアイツは俺に遠慮してるんだよな。」
「いつまで経っても『先輩』なのかも。」
「「どっちもどっちだな…」」
「あ”?」
「いや!何でも無い!!」
「よっちんさー。紗友と一緒にいて幸せやな~って思うことあるやろ?」
「あ?……今日は随分食いつくじゃん。」
「まぁ…ちょっと興味がわいて。」
「………いつもだよ。」
「!?」
「言葉が少なくてもアイツの考えてる事は、分かるようになったし。」
「お互い仕事が忙しいから、会える時間は少ないけど。」
「だからこそ、一緒にいられる時間は貴重だし。」
「幸せなんだよ。」
「朝、同じ鏡を見ながら並んで歯を磨く時間だってかけがえのない時間なんだ。」
「よっちんがデレた…」
「予想以上の収穫だな。」
「あ?何??何の話?」
スッとテーブルにiPhoneが出される。
画面を見ると…
『桐島紗友 通話』
とりあえず、画面をタップし電話を切る。
「お前ら………」
「何てことしてくれてんだよーー!!!」
「「吉野!!声でかいから!!!」」
俺は今も紗友の顔が想像できる。
顔を真っ赤にさせて、泣いてる。
早く涙を拭いに行かないと。
END