第13章 合宿最終日―練習試合―
東峰の本心を知ってか知らずか、夜久は東峰に対して不敵な笑みを浮かべてみせた。
東峰の胸中に、チリリと火花が走る。
音駒が先に20点台にのった。
追う烏野の得点は16点。
あと5点取られれば終わり。
監督やコーチにも焦りの色が見える。
「うう…あと5点…!」
思わず黒崎は弱気になってしまった。
唇を噛みしめて試合を見守る黒崎に反して、隣の清水は冷静だった。
澤村の言葉を借りれば、今の烏野は『顔を合わせたばかりの面子』なのだ。それも『デコボコでちぐはぐ』の。
圧倒的に学校数の多い東京のチームに比べれば、烏野の実力が劣ってしまうのは仕方がないこと。
普段から競い合う相手の数が違うのだから、そこには当然実力の差が表れるものだ。
「勝っても負けても、糧になるから」
揺るがない眼差しでコートを見つめる清水の横顔に、黒崎はこくりと頷いて弱気な言葉を飲み込んだ。
黒崎と同じく弱気を打ち砕くように、追い詰められた烏野メンバーに対して、烏養が発破をかける。
「パワーとスピードでガンガン攻めろ!!今持ってるお前らの武器ありったけで、攻めて、攻めて、攻めまくれ!!!」
その言葉に、烏野の面々はまた勢いを取り戻す。
徐々に音駒との点差を詰め、烏野も20点台にのる。
しかし地力の差が出たのか、すぐに音駒がマッチポイントを取った。
24対23。
ここで烏野が粘って1点を取れば、デュースとなり試合は続く。
正念場の1本を託されたのは、エースの東峰だった。
渾身の力で、ボールを相手コートへと叩きつける。
しかしそれをまた、夜久が真正面で受け止めた。
「くそっ、また…!」
チッと舌打ちした東峰だったが、その彼の執念のおかげか、夜久は真正面でボールを受けたものの、先ほどのようにセッターの元へは戻らず、ボールは烏野コートへと舞い戻ってしまった。
チャンスボールに対して、烏養が叫ぶ。
「東峰、ダイレクトだ!!」
「叩け!旭!!」
澤村も烏養の言葉に呼応するように叫び、希望を東峰へと託した。
託された希望を繋ぐように、うなり声をあげて東峰が返ってきたボールを叩く。
空を切り裂くような勢いでボールは走った。
かろうじてそれを福永が受け止めるも、ボールは再びチャンスボールとなって烏野コートへ舞い戻っていった。