第13章 合宿最終日―練習試合―
音駒と烏野の練習試合は、影山と日向の速攻で幕を開けた。
2人の速攻を初めて目にする音駒の面々は目を丸くして驚くばかりだった。
ただ1人、弧爪研磨を除いては。
「あの2人の速攻…、分かってはいるけど試合で見るとより速く感じますね…!」
「そうだね。初見で対応は出来ないと思うよ」
ノートにペンを走らせながら、清水は黒崎に言葉を返した。
伏せられた長い睫毛がふっと持ち上げられ、清水は黒崎へ視線を向ける。
「でも、相手も対策を講じてくるから。そこからどうしていくかが、肝心だと思う」
黒崎が予想だにしなかった言葉を清水が言うものだから、黒崎は何も言えなくなってしまった。
素人の黒崎から見て、日向と影山の速攻はそう易々と攻略できるようには思えなかった。
この2人がいれば、それに加えてエースや天才的なリベロがいれば、それだけでもう烏野は最強なような気がしていた。
だが実際はそう甘くはないらしい。
それは試合の流れを見ていれば明らかだった。
始めは反応すら出来なかった日向と影山の速攻に、犬岡が少しずつ対応し始めたのだ。
ずっと烏野がリードしていたが、とうとう音駒に追い付かれてしまった。
「…見てるの、しんどいですね」
黒崎は思わずそんな言葉を口にしていた。
自分も小柄だから、日向の気持ちが痛いくらい黒崎には分かる。
どうしたって身長の壁は乗り越えられない。
そこを補って余りある日向の身体能力があるとはいえ、現にそれは犬岡の手によって叩き落されていた。
「これから、そんな場面がいっぱいあると思うよ」
清水は事も無げにそう言った。
相変わらずペンを走らせたまま、清水は表情を変えない。
「それを乗り越えないと、強くなれない。勝てないんだよ」
清水の視線の先には、唯一の武器である速攻を止められた日向の姿があった。
どれだけ日向が落ち込んでしまったかと、黒崎も彼に視線を送った時。
「――笑ってる」
瞬間、清水も黒崎も背筋がぞくりとした。
それは烏野や音駒の部員達も同じだったようで、一瞬静寂が体育館を支配する。
「なんで、笑えるんだろう…」
徹底的に自分をマークされて、その上自分の武器を取り上げられて。
なおも日向があんな表情を見せる理由が黒崎には分からなかった。