第8章 GW合宿 2日目
せっかく見つけた私の居場所を、この人はいともあっさりとぶち壊すんだ。
今までだって、何度それで悲しい思いをしてきただろう。
こみ上げてくる思いを吐き出すことを、今日は我慢できなかった。
「っ、また、引っ越すわけ?!」
『それもいっかなーって。こっち来てまだ2ヶ月くらいだし、お別れも寂しくないでしょ?』
へらへらと言う母に心底怒りがわいた。
その怒りは押し殺すことが出来なかった。
思わず立ち上がって電話越しの母に怒鳴り散らす。
「ふざけないでよ!!…私が…私達がどんな思いで今まで引っ越してきたと思ってるの?!?もういい加減にして!!お母さんの色恋沙汰に振り回されるのはもううんざりだよ!!!」
『なっ、誰があんたを今まで育ててきたと思ってるの?!今高校に行けてるのは誰のおかげ?!』
ドラマみたいなありきたりなセリフに、顔がひきつる。
今私の顔は酷く醜く笑っているに違いない。
「そうだね、お母さんが色んな男の人ひっかけたおかげだよね!そのお金で私を育てたんだよね!」
『っ、あんた!!』
母の声が震えている。
違う、母がきちんと働いて稼いだお金で私達を育ててくれたのは分かっている。
分かっているのに、それ以上に今は憎しみが口をついて悪態となって出ていってしまう。
口に出してしまった言葉はもう取り消すことはできない。
『…そんな風に、思ってたの』
「……うよ。そうだよ…。もう、嫌だよ。振り回されるのは、嫌!」
もう母の声をこれ以上聞いていたくない。
指は自然に通話終了のボタンを押していた。
ぶつける先を見失った胸のうちにくすぶった思いを発散させるように、思いきり携帯を投げつける。
派手な音をたてて、携帯は床にぶつかり、何度かはねて動きを止めた。
「っ……」
しゃがみこんで顔をうずめる。
堪え切れずに嗚咽を漏らす。
ほら、また。
暗い方へ暗い方へ引きずり込まれてしまう。
やっぱり私は明かりのもとへは行けないのだろうか。
いつまでたっても呪縛から逃れられないままで。
「…黒崎……大丈夫、か?」
頭上から、優しい声が降り注ぐ。
遠慮がちにかけられたその声の主は、おそるおそる近づいて、しゃがみこんだ私と同じ目線になる。
何と言ったらよいのか困った顔で、旭先輩は私を見つめていた。
「ごめん、盗み聞きする気はなかったんだけど……」