第47章 不確かなものだから
「今日花火大会があるんだって」
朝食をとっている私に、姉が一枚のチラシを見せてきた。
『七夕まつり花火大会』
大きな赤い文字が黒字のチラシにはっきりと浮かんでいる。
もう八月だというのに七夕とは、と思いつつパンをかじる。
「せっかくだから旭くんと行ってきたら?」
チラシを見せられてすぐに自分もそう考えた。
けれど、今日もいつもと変わらず一日部活だ。
「行きたいのは山々だけど、今日も部活だし」
「夜まであるわけじゃないんでしょ? 終わってから行けばいいんじゃない?」
「んー…でもみっちり夕方まで部活あるしさ」
「聞くだけ聞いてみたらいいじゃん。旭くんなら喜んで行ってくれると思うけどなぁ」
きっと、そうだと思う。
旭先輩なら「いいよ」って言ってくれそう。だけど。
「優しいから付き合ってくれるとは思うけど……無理してほしくないから」
「愛だねぇ、愛」
にししと笑うお姉ちゃんに、適当に返事をして朝食を済ませた。
家を出る時もお姉ちゃんはダメ押しのように花火大会の話をしてきた。
「もし行くことになったら、着付けとメイクしてあげるから」
「はいはい。その時はよろしくね」
そう言いつつも行く気はさらさらなかった。
二日後には春高の一次予選がある。今はデートだなんだとうつつを抜かしている時じゃない…と思う。
本音を言えば、せっかくの花火大会二人で出かけてみたいと思うけれど。
付き合い始めてまだ日が浅いのもあって、どこまで我儘を言ってもよいのか、分からない。
始終構ってほしがる面倒な子にはなりたくないし、バレーの邪魔になるようなことはしたくない。
そんな事を考えながら玄関の扉を開けると、家の前で旭先輩が笑顔で待っていた。
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*旭side*
朝から日差しが容赦なく照り付ける。
ジワジワと鳴いているセミの声を聞くと余計に暑い気がしてくる。
暑いせいか何か機嫌を損ねることがあったのか、隣を歩く黒崎はちょっと険しい顔をしていて、なかなか肝心の話題を切り出せないでいた。
ただ一言、花火を見に行こうって言えばいいだけなのに。
日曜日駅に迎えに行った時に誘えば良かった…当日に誘って、黒崎に予定があったらどうしよう。
誘う前からあれこれ考えてしまう。
付き合うことになったからってベタベタしすぎて嫌がられないかな。