第46章 おかえり
「おめでとう!!」
笑顔の姉は私と旭先輩をテーブルにつかせると、拍手をしながら何度もおめでとうと繰り返した。
テーブルの上に並ぶ御馳走の数々を見て、どれだけ姉が喜んでくれているのか分かった。
赤飯まで炊いてあるのはやりすぎだと思うけど。
「私本当に嬉しいの。二人が付き合うことになって」
姉の言葉にお茶を飲んでいた旭先輩と兄が同時にむせた。
先輩をぎろりと睨みつける兄の足を踏みつける。
少しは先輩のこと受け入れてくれたと思っていたのに、彼氏となるとまた話が違ってくるようだ。
こんな妙な雰囲気の中、旭先輩いたたまれないだろうな。申し訳ない。
「もうお姉ちゃん、その話はいいよ。先輩も困るから」
「ごめんね旭くん。今後ともどうか妹をよろしくね」
「はい。大事にします」
「…チッ。結婚するわけでもねぇのに何言ってんだよ」
「将来的にはそうなるかもしれないでしょ。あんたもいい加減そんな顔すんのやめな。義理の弟になるんだよ?」
「はぁ? おい旭、お前こいつと結婚するつもりなのか」
姉と兄の暴走で、話はますます変な方向に向かっていた。
そんなこと言われても旭先輩困るだけなのに。
「もう!!お姉ちゃんもお兄ちゃんもいい加減にして!!…祝福してくれるのは嬉しいけど、すこしそっとしておいてほしい」
まだ付き合い始めたばかりなのに、あまり先の話をされるても困る。
将来どうなるかなんて何も分からないのに。
将来。この先、付き合いが続いたとして。
来年宮城を離れ東京に行っても、私は旭先輩と今の関係を保ったままでいられるんだろうか。
先輩だって卒業して、その先進学なり就職なりして新しい世界に踏み出していく。
新しい出会いもあるだろうし、何よりお互いの環境が変わるのだ。
今はただ彼女になれたことを純粋に喜んでいたいのに、先の事を考えると不安しかなかった。
「そだね…ごめんね、二人とも。私はしゃぎすぎた。本当に嬉しかったんだ……旭くんいい子だし美咲も今まで色々大変だったから」
「…お姉ちゃんの気持ちは嬉しかったよ。ありがとう」
姉も兄も私の事を心配してくれているのは、痛いほど分かっていた。
度が過ぎるところはあったけれど。
「よし、ご飯食べよう! 旭くんの口に合うといいんだけど」
「いただきます」
四人で囲む食事は、今までで食べたご飯のどの味よりも美味しかった。