第45章 【過去編】 あの頃のぼくらは
その日は、朝から蒸し暑い日だった。
カレンダーの日付はようやく5月に入ったところだというのに、気の早い夏がやってきたかのようで、夜久衛輔は窓から差し込むまばゆい朝日に顔をしかめて目を覚ました。
衛輔が目を覚ましたのは、朝日の他にももうひとつ理由があった。
家の前で何やらガタガタと騒がしい。
昨夜は休みの前だからと少し夜更かしをしてしまっていたから、衛輔の頭はぼんやりとしていた。
──もう少し寝ていたかったのに。
衛輔は、自分を起こした原因は何かと、窓の外を睨みつけた。
衛輔の家の隣は、しばらく空き家になっていた。
前の家の持ち主が不倫の末のゴタゴタで、家の中で殺人未遂が起きたという曰くつきだからか、なかなか入居者が決まらなかったらしい。
最も、幼い衛輔にはそんな大人の事情など知る由もなかった。
その空き家の前に大きなトラックが止まり、水色の作業服を着た人達が次々と荷物を家の中に運び込んでいる。
引っ越しだ。
誰かが隣に引っ越してきたんだ。
衛輔はそれまで、引っ越しの様子を見たことがほとんどなかった。
さきほどまで睡眠を妨害されて腹を立てていたことも忘れて、流れるように次々と家の中に消えていく段ボールの数々を、衛輔は興味深く眺めていた。
眺めているうちに、水色の作業服以外にも、人がいることに衛輔は気が付いた。
きっと、隣の家に引っ越してきた人達だ。
明るい髪色をした女性に、その人の子供だろうか、衛輔と同い年くらいの男の子と女の子がいる。
もう1人、その子達より年上の若い女の人もいた。
衛輔と同い年くらいの男の子と女の子は、連れ立って庭へと駆け出していく。
何もない庭でしゃがみこみ、2人はじっと下を向いている。虫を観察でもしているのだろうか。
あとの女性2人は、作業員とともに部屋の中へ入ったっきり出てこなかった。
ひとしきり引っ越し作業を眺めた衛輔は、手早く着替えを済ませて、階下のリビングへ駆け下りた。
「おかあさん、お隣引っ越してきたよ!」
起きてくるなり大声で言う衛輔に、母親は微笑んだ。
「おはよう、衛輔。そうね、どなたか引っ越してきたみたいね」
「俺と同じくらいの子いた! 男の子と女の子!」
「あらぁ、そう。仲良く出来るといいわね」
「うん!」