第38章 合宿1日目夜~2日目
*東峰side*
食堂内は人もまばらだった。
まだ自主練をしている奴らの方が多いんだろう。
俺と黒崎はぎこちなさを抱えたまま、一番奥の席に腰を下ろした。
「無理せず食べられるだけ食べておきなよ」
「はい、そうします」
色々と話したいことはあったけれど体調もまだ心配だったし、今は食事に専念することにした。
食事をしているのに、味がしないって本当にあるんだな、とぼんやり思いながら、おかずを口に運ぶ手は止めなかった。
黒崎とまた前みたいに話せるようになった。
そのはずなのに、今目の前にいる黒崎は、彼女であって彼女でないみたいだ。
結局、このところ俺を避けていた理由は聞けずじまい。
うまくかわされたというか、話を変えられてしまったから。
もう一度聞くことは出来なかった。
黒崎は、理由を話したくないんだろう。だから話の流れを変えて、わざと明るく振る舞って。
今だってどこか無理矢理笑ってる。
そのくらいは、俺にも分かるよ。黒崎。
いつも肝心なところは教えてくれない黒崎に、胸がズキンと痛む。
どうしたら俺に全部見せてくれるんだろう。
隠し事なんかしないでほしいのに。ありのままの黒崎が知りたいのに。
本当は思い切って告白してしまおうかとも思った。
『大事な人だから』って言った後、俺の気持ちをぶつけてしまおうかと思った。
でも。
夜久と約束したから。
ここまでフェアに戦ってくれた夜久を裏切ることは出来なかった。
先に食事を終えてしまって、手持ち無沙汰になる。
じっと黒崎を眺めているのも彼女を急かすような気がして気まずい。
かと言って食堂に1人黒崎を残していくのも忍びなかった。
ゆっくり食べろよ、と声をかけて水を取りに行く。
のどが渇いていたわけじゃないが、あのままずっと座っているのも間が持たない。
「東峰、おつかれ」
「おうお疲れ。清水、今から食事?」
「うん」
給水器の前でちょうどいいタイミングで清水に声をかけられた。
清水がいれば黒崎も心細くないだろう。
「清水、黒崎のこと頼んでもいいか? 俺練習に戻るから」
「分かった」
こくんと頷いた清水に、じゃあ頼むな、と念押しして食堂を出る。