第4章 合宿の準備
「おう、楽しみにしてる」
それでも旭先輩は優しい声音で、そう返事をしてくれて。
ああやっぱりこの人は優しいなぁ、なんて思った。
楽しい会話も今日はここまで。
気付けばもうすでに家の前まで来ていた。
二人の足は自然と止まる。
「今日も家まで送って下さってありがとうございました」
「いや気にしないでいいよ。うち、すぐ近くだし。…じゃあ、また明日な」
「はい、また明日」
ひらひらと手を振って、旭先輩は元来た道を引き返し始めた。
私は遠くなっていく背中を見つめ、ついにはその背中が塀の向こう側へ消えていくまで、黙って見送った。
名残惜しさを感じながらも、玄関の扉を開けて家族に帰宅を告げた。
******
午前の授業終了のチャイムが鳴るとほぼ同時に、机の上の教科書とノート、筆箱を急いでしまう。
すぐに机の脇にかけたお弁当箱の入った手提げに手をかけ、授業終わりの挨拶が終わったらすぐにでも教室を飛び出せるように準備は万端だ。
横の席のクラスメイトが私の動きを横目で見てビックリしているのが目の端にうつった。
教卓の先生からは私の行動は丸見えかもしれないけれど、前の席の高身長のクラスメイトの陰に隠れてうまくやったつもりだ。
委員長が「礼」と言った後に教室全体に「ありがとうございました」の声が響く。
私は早口でつぶやきながら、手には手提げをしっかり持っていた。
幸い先生に咎められることもなく、昼休みに無事突入した。
速攻でお弁当をかかえて3年生の教室へと急ぐ。
先ほどまで教室にいた先生の横を足早にすり抜けて、階段を一段飛ばしに上る。
ちょっとだけはしたないかな、なんて思いながらも、気持ちはもっと早く早く、と急いている。
昨日色々と考えたメニューを、一刻も早く潔子先輩に伝えたい。
もっとたくさん、バレー部に関わる時間が欲しい。
そう思うと、足はどんどんとスピードを上げて、潔子先輩の教室へと向かうのだった。
「黒崎、そんなに急ぐと危ないぞ」
「ひゃっ、澤村先輩?!」
急ぐあまり、澤村先輩の存在に気が付いていなかった。
挨拶もせずに通り過ぎようとした私を咎めたわけではなさそうだったが、規律に厳しい澤村先輩の目には、廊下を急ぐ私が気になったようだ。