第24章 私の居場所
伊達工との試合開始の時間が迫り、部員達と合流して体育館へと向かう。その途中で、今日何度耳にしたかしれない声がとんできた。
「黒崎ちゃーん」
これから試合だというのに、二口さんは相変わらずにこやかな顔で私に手を振ってきた。名前を呼ばれて無視するわけにもいかず、軽く会釈をする。
二口さんが何か話しかけてこようとしたけれど、菅原先輩がすっと私の前に出てきてそれを制した。
「うちのマネに粉かけないでもらえるかな?」
「あれあれ、黒崎ちゃんってえらく大事にされてるんすねー」
「そりゃあ可愛い後輩だからね。変な虫つかないようにしないとね?」
「変な虫って俺のことですか? 心外だなぁ」
軽いノリでそう言ってのける二口さんに、菅原さんがまた何か言い返そうとしたけれど、二人の間に茂庭さんがにゅっと割って入って、二口さんを引き離した。
「二口! お前さっきから烏野の人達に絡みすぎ!! これから試合なんだぞ」
「わーってますよ。むしろ試合前だから絡んでんじゃないッスか」
「はぁ? どういう事だ?」
「平常心乱せたらこっちのもんでしょ」
「お前、そういう性格悪いこと言うのやめなさい!」
「はぁーい」
「すみません、本当にすみません!!」
茂庭さんは何度も頭を下げて二口さんを引っ張って行った。菅原先輩と顔を見合わせて、二人して苦笑いしてしまった。
「美咲ちゃん、えらく気に入られてんね伊達工の二年に」
「……なんででしょう。私何もしてないんですけど……」
「気をつけろよー。男はみんな狼だぞ」
「そのフレーズ気に入ったんですね、菅原先輩」
「あ、分かった?」
菅原先輩はぺろっと舌を出しておどけてみせる。そのままの調子で菅原先輩は体育館の中へ入ってしまった。菅原先輩はあくまで明るく言っていたけれど、あれは先輩なりの本気の忠告なんじゃないだろうか。
私にどこか隙があったから、あんな風に何度も声をかけられてしまったのかもしれない。
隣に立つ潔子先輩を見れば、遠巻きに見つめる男子生徒は多いものの、声をかけてくるような人はいない。潔子先輩はきりっと涼し気な顔をしていて、美人だけど声をかけるには勇気がいりそうな気がする。
そんな潔子先輩を真似してみようと、きりっとした面持ちをしようと試みた。
「どうしたの、美咲ちゃん?」