第23章 心はいつも、そばにある。
「えっ……いや、そういうんじゃないけど……」
「なぁんだ。なら何も問題無しッスよね?いいじゃないっすか、マネとの交流くらい大目に見てくださいよ。うちほぼ男子校みたいなもんなんで、出会い無いんですよ」
「えぇ……いやでも……」
「俺に教えたくない理由でもあるんスか?」
「……」
二口さんの質問に、旭先輩は押し黙ってしまった。
旭先輩が無言になってしまったのをいいことに、二口さんはまた私に名前を尋ねてきた。
もうさっさと名乗って解放してもらおうか、と思い口を開きかけた時だった。
「おい、二口何やってるんだ!」
声のした方に目をやると、先ほど青根さんの指差しを止めようとしていた伊達工の人が大股でこちらに近づいてきていた。
「茂庭さん」
「また烏野の人達に絡んでたのか? うちのヤツがどうもすみません!!」
茂庭さんは先ほどの時と同じように深々と頭を下げて謝罪を始めた。横の二口さんは口をとがらせて納得のいかない顔をしている。
「ほら二口、お前も謝れ!」
「俺別に謝るようなことしてないっすよ。ただ彼女の名前聞きたいって言ってただけですし」
ジャージのポケットに手を突っ込んで、二口さんは明後日の方向を見ている。そんな二口さんに茂庭さんは深いため息をはいた。
「……お前なぁ、これから試合する相手のマネージャーをナンパするやつがどこにいる」
「ここにいますよ」
「あーっ、もう! そういう返しをするな!」
普段からこういう感じなのだろうか、茂庭さんは至極困った顔で二口さんを見上げていた。口では二口さんに勝てないようで、茂庭さんは声を張り上げて対抗している。
「そういうの理不尽じゃないですか、茂庭さん。聞かれたことに答えただけなのに」
「っ、とにかく! これ以上烏野の人達に迷惑かけるな! 本当にすみません!! ほらいくぞ、二口!!」
「はいはい、分かりましたよ。じゃあまたね、黒崎ちゃん。……試合に勝ったら、今度こそ名前教えてね」
「ふーたーくーちー」
「そんなに睨まなくてもいいじゃないですか!」
茂庭さんにジャージの裾を掴まれて、二口さんは引っ張られていった。嵐のように去って行く伊達工の二人に、私と旭先輩はぽかんとしていた。
「……俺らも、行こうか」
「そうですね……」